欧文フォントデザイナー 小林章

外国の観光地で、『コインロッカー』って日本語の看板があったりします。一目で外国人の書いた字だとわかる。同じことが、これまで日本人がデザインしてきた欧文にもいえます。読めるんだけど、なんか変なんですよ。

タイプバンクの明朝・ゴシック体は、どれもごく普通のデザインで読みやすさを考えて作られている。それに合わせる、ごく普通の欧文をデザインするというのは、ごまかしのきかない、難しい仕事だと思いました。でも、できあがった欧文は、和文と調和させながらも、アルファベット本来の美しさを崩していません。海外の一流書体デザイナーからも高い評価を得ています。

英国で学んで良かった、と思うことは二つあります。

ひとつはタイポグラフィに関する本が多いこと。普通の図書館でも十数冊は並んでます。どれも基本から丁寧に書いてある。そして一冊読むと、参考文献の項目から、さらに数冊探せる。

もうひとつは、文字に関わっている工芸家と文字デザイナーとの交流の深さ。カリグラファーも石工もデザイナーも、時々集まって話をする場所がある。そこで知り合った石工の家に数日泊り込んで、碑文の彫刻のてほどきを受けるなんてこともありました。そのころ無我夢中で飲み込んでいたものが、日本でいま少しずつ消化できるようになってきたと思います。

欧文フォントデザイナー 小林章
欧文フォントデザイナー
小林章 Akira Kobayashi

株式会社写研で文字デザインを担当の後、欧文書体の基礎を学ぶ必要を感じて退社、ロンドンでタイポグラフィについて学ぶ。

帰国後に字游工房、タイプバンクを経てフリーランスとなり、欧米の書体デザインのコンペティションで受賞多数。2001 年春より、ライノタイプ社のタイプ・ディレクターとしてドイツに在住。有名な書体デザイナーであるヘルマン・ツァップ(Hermann Zapf)氏やアドリアン・フルティガー(Adrian Frutiger)氏と共同で、両氏の過去の書体の改刻も行っている。

また、業務とは別に、デザイン誌を中心に書体デザインについての執筆など精力的に活動しており、著作『欧文書体:その背景と使い方』(2005年、美術出版社)『欧文書体2:定番書体と演出法』(2008年、美術出版社)が好評発売中(本文日本語にタイプバンクフォントを使用)。